埋められないもの

ひとつの曲を
息をつめて聞いていたころがある
それこそ自分の全存在をたくして

自分の思いが経験に追いつかないころ
それはたいせつな時間だった

いまはもう経験値が増え
言葉もうまくあやつれるようになり
世界はむかしより身近なものになった

ああいうふうに
もう曲は聞けない
聞かない

でもときたま思い出すのだ
眠れなかった夜のことを

自分はお芝居を作る仕事についた
ひょっとして僕が作るお芝居によって
埋められない何かを埋めようとしている人が
いるのだとしたら

そういうことを考えるようになってから
責任を感じるようになった

その責任感は
決してイヤなものではない
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8月ウィーン



by sadsonghappystory | 2015-11-09 00:12 | いろいろ

★板垣恭一/いたがききょういち 東京都出身。演出家。日大芸術学部演劇学科、第三舞台を経て、フリーの演出家に。以降、数々のプロデュース公演を演出。映像ディレクターとしても活動。


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